電気電⼦通信⼯学科 座談会 電気電⼦通信⼯学科 座談会

つながる時代には、
「つなげる人」 が要る。

現代の複合的な課題を解決できる技術者を育成するために−若手教授陣による座談会−

都市大は、魅力あふれる大学ですね。では、もう少し詳しく、「つながる時代には、「つなげる人」が要る」、について、お話を伺いたく思います。最近、Society 5.0という言葉が出てきましたね。

岩尾

人、モノ、お金、情報が、瞬時に世界を駆けめぐる現代社会では、これらお互いを有機的につなぎ、ビックデータ、AI、ロボットなどを駆使しながら、付加価値をつけサービスを展開することが重要と考えます。今後、当たり前になっていく「つながる時代」には、人やモノに寄り添い、サービスを展開することができる「計測」「通信」「制御」の技術が必要です。これからの社会では、この3つの技術を駆使し、あらゆるモノをつなぎ発展させていく、IoT時代をリードする「つなげる人」が求められています。内閣府が提唱するSociety 5.0*の実現には、まさに、このつなげる人が求められていると思います。

澤野

現在、AIやIoTなどの言葉を毎日のように耳にしますが、それらの技術をハードウェアとして支えているのは、半導体テクノロジーと言えます。要するに、全ての情報のやりとりは、半導体ICチップが行っているわけです。私たちの気付かないところでICチップが動いているわけですが、その消費電力というのは馬鹿になりません。特に情報データを扱っているデータセンターにおける消費電力は、年々爆発的に増大していて、将来的に大問題になるのは避けられません。しかしながら、一方で、ICチップの性能向上に限界が見え始めているのです。これは、これまでの性能向上はシリコン・デバイスの縮小化によって何十年間も進められてきたのですが、その微細化が遂に限界に達していることが原因です。
総合研究所ナノエレクトロニクス研究センターでは、シリコンに替わる材料として、ゲルマニウムを利用し、シリコンを超える性能を実現する研究を行っています。この実現によって消費電力を大幅に下げることができて、今後も継続的にICチップが利用できるようになります。今後のSociety5.0における情報通信技術(ICT)、AIやIoT技術のさらなる発展を、縁の下で支えていくのが我々の研究の使命と思っています。

Society 5.0では、「フィジカル空間からの膨大な情報をサイバー空間に集積させ、このビッグデータをAIが解析し、フィジカル空間にフィードバックさせる」*ということを掲げていますが、これを実現させると情報量が膨大になるとともに、秘匿性の高いデータを取り扱う頻度も高くなります。従来の公開鍵暗号方式では、解読のための計算量のみが安全性を決めているので、技術の進歩と共に解読されるリスクが高く、残念ながらそれを悪用する人が出てくると考えられます。このため、より安全性の高い通信技術の需要が高まるのではないかと予想しています。そのような背景の下、エレクトロニクス分野では円偏光発光素子の研究を光暗号通信に応用できるのではないかと考えています。従来の光パルスの「1」「0」に偏光の情報を加えることで暗号鍵としての機能を持たせることができれば、より安全性の高い光通信が実現できるのではないかと期待しています。

鈴木

電気機器分野では、自動車、工作機械、家電や情報機器などは、多くのモータが使われ、例に挙げると自動車一台には、200万個の大小様々なモータが使われています。また、1日の消費電力の6割は、モータとも言われています。研究を通し高効率なモータの開発やパワーエレクトロニクスなどのドライブ回路を含めた高効率な駆動法は、持続可能な省エネルギー社会や電気自動車、ロボット分野へ寄与すると思います。また、ロボットや工作機械に組み込まれたモータやコントローラに取り付けたセンサをネットワークにつなぐことで消費電力や生産量を常に管理し、得られたビッグデータからAIにより無駄時間を管理できるため、効率的な生産管理が可能となります。

岩尾

電力エネルギー分野では、都市に集まる、人、モノ、お金、情報の動きのすべてをリアルタイムに把握し、電力を省エネで安定に供給していくことが求められています。この実現のためには、エネルギーのベストミックスが必要で、水力、火力、原子力、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)を有機的につなぎながら、電力の需要と供給に関連するあらゆる情報を瞬時にビックデータに吸い上げ、AIを駆使しながら、電力ネットワークの安定かつ効率良い運用を決定していく取り組みが求められます。この実現には、スマートメーターや、送配電や受変電技術、電気自動車を活用した蓄電技術、パワーエレクトロニクス技術、ブロックチェーンの技術を駆使しながら電力を供給していくスマートな社会が求められます。
また、雷や台風、地震といった自然災害時や、経年劣化などにも負けない電力ネットワークの構築も目指しています。さらには、私たちの安全で快適な暮らしを支えるために、身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる IoT や 情報通信技術 ICTを駆使しながら、製品の劣化診断とメンテナンス技術の開発、高速な事故判定と電力安定供給の技術の開発、環境汚染物質の除去・無害化技術の開発など、高電圧大電流や放電プラズマを応用した研究や製品開発も極めて重要です。

平野

通信システム分野のうち、特に、無線通信では5Gと呼ばれる世代の技術が広まろうとしている段階で、高速あるいは信頼性のある通信が可能になる規格がそろい、期待が高まっています。試作レベルから工業生産を自動化するIndustry4.0、 全てのものがインターネットにつながるIoT、通信技術などを社会に役立てるSociety5.0などの用語が造られて、無線通信が重要な役割を担っています。特に、無線機の小型化はIoTなどに有効です。

岩尾

こう考えると、今回、電気電子通信工学科に進化することは、時代を先取りすることになりますね。当学科は、現代の複合的な課題を解決できる技術者を育成することを目的としています。総合研究所と4つの分野がリンクし合いながら、複合的な課題を解決する技術者を育てることは、次の私たちの暮らしを支える上で、大変重要なことですね。

そうですね。電気電子通信工学科は、産業と生活をあらゆる面から支えている「電気・電子技術」と、情報社会の基盤である「通信技術」とを高いレベルで融合させ、さらなる有効利用と新しい可能性を探求しようとしています。実践的な授業の下、電気・電子・通信工学の専門知識と技術を学び、現代の複合的な課題を解決できる技術者を育成することを目指しています。変化の激しい時代において、常に新しい視点で技術開発を支え現代の複合的な課題解決を図るため、挑戦的・先駆的なカリキュラムを用意していますよね。

岩尾

従来のエレクトロニクス分野、電気機器分野、電力エネルギー分野に、通信システム分野を加え、エネルギーから情報ネットワークまでを統合した技術体系を学び、総合的な知識を持ち持続的な社会の発展に貢献し、現代の複合的な課題を解決できる優れた技術者を育成していきます。卒業生は電力、制御、機器、デバイスから通信システムまで幅広い分野での活躍が期待されています。

澤野

この分野の人材は、従来の工学部の枠組みでは、なかなか実現できることではありませんよね。AIもロボットも、結局、「計測」「通信」「制御」が基本ベースですから、これを学ぶことで、応用も効くわけですよね。

鈴木

最近の工学系の学科は、専門技術分野の高度化とともに、学科が細分化・小型化される傾向があります。でも、1つの分野に偏ったカリキュラムでは、これからの時代では通用しないと思います。今回、東京都市大学の中で最も歴史があり、本学を代表とする電気電子工学科は、情報通信工学科のDNAを融合して、電気電子通信工学科に名称変更、進化させます。専門領域・分野を広く網羅した、電気関係学科では日本最大級の150名の大型学科とする狙いは、ここにあるんですよね。

平野

今回、特に通信を入れ、ハードからソフトまで、幅広く学ぶカリキュラムとなったことは、学生の可能性を広げることができますし、将来、どのような場面にも対応できる、まさに複合的な課題を解決できる技術者を育成することになると思います。私が学生時代に戻ったならば、絶対にこういった学科に入りたいですね(笑)。

ありがとうございました。Society 5.0をも先取りするカリキュラムを持つ学科となるのですね。新入生の学びと成長が楽しみですね。それでは、次に、先生方の御研究、電気電子通信工学科の教育面の充実、学生の活躍について、お伺いしたいと思います。

(月1回配信。来月につづく)

*内閣府のホームページ(http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)より引用。
【Society 5.0で実現する社会】
これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約がありました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした。
Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。